ハノイ大学ドイツ語学科訪問記     栗山次郎

 

 私は一昨年(2013年)からしばらくベトナムのハノイ市で日本語を教えていました。時々ですが、ハノイ大学外国語学部日本語学科を訪問したことがあります。そこでの何かの話の途中に、日本語の先生に、ドイツ語学科はありますか? と尋ねたことがありました。ありますよ、1階上の階ですよ、という答えでした。そのことはすっかり忘れていたのですが、2014年秋に急にこの話題を思い出しました。そこに行けばベトナムのドイツ語教育のことが聞けるかもしれないと急に思い至ったのです。知人は、それだったら学科長の先生が詳しいだろう、と言って Duong Thi Viet Thang 先生を紹介してくれました。先生にメールを書いたところ、12月31日には少し時間があるので大学で会いましょう、という返事をいただきました。

 ベトナムは「お正月」を旧暦で祝います。1月1日は祝日ではありますが、少しお祝い気分の濃い休日に過ぎませんし、12月31日も大晦日の雰囲気はありません。授業が行われており、二輪車置き場にはバイクと自転車が並び、キャンパスには学生の声が溢れています。とは言え、学生数はいつもより少ないように思いました。1日から4連休になるので、自主的に5連休にする学生が多いのかもしれません。

 昼休みの時間になったので、外国語学部の建物のドイツ語職員室に入るとベトナム語で挨拶をして、用件を尋ねられます。ドイツ語で応えますと、「ベトナム人とお見受けしました」とのことで、以後はドイツ語で対応してくれました。何の連絡もなくドイツ語研究室に現れた東洋系の顔をした人がドイツ語をしゃべるとは思わないでしょうから、東洋系の顔だからベトナム人だろう、と思ってベトナム語で話しかけたのは無理もないことではあります。

 しばらく待っていましたらDuong 先生が職員室に来まして、授業の間の休み時間ですから1時間に満たない間でしたが、学科長室で話をうかがいました。Duong 先生の専門や私の経験などをはさんでの、とびとびにでしたが、ベトナムのドイツ語教育の概略をお聞きしました。要点のみ書いてみます。

 

 (A) 大学レベルのドイツ語教育が始まったのは1967年です。この年にハノイ外国語大学にドイツ語学科が設置されたのです。ハノイ外国語大学は後にハノイ大学に統合され、現在のハノイ大学外国語学部の母体です。

  (B) 現在大学レベルでドイツ語学科があるのはハノイ大学、ハノイ国家大学、ホーチミン国家大学の三国立大学です(* 1)。

  (C) 現在のハノイ大学ドイツ語学科の学生数は1学年約75名、4学年で約300名です。クラス数は1学年4クラス、総計16クラスあります(* 2)。ですからベトナム人の先生は16名います。ドイツ人の先生は3名います(* 3)。

  (D) 三大学やドイツ語を教える学校(* 4)でのドイツ語の先生はベトナム全体でも総数で約100名です。これらの先生方が四年前にベトナム・ドイツ語教師協会(der Vietnamesische Deutschlehrerverband, VDLV ) を設立しました。

 協会は対内的には隔年で研究発表会を開いています。対外的には IDV 及び(タイ、ラオス、インドネシア等の)南アジア諸国のゲルマニスト協会と交流しています。近年はインドのゲルマニスト協会ともコンタクトを密にしています。 

 

 (E) ベトナムの客観的なドイツ語教育の概略は以上のようです。以下は Duong 先生からのメッセージを栗山がまとめたものです。

 アジア・ゲルマニスト会議のことはベトナムでも話題になることがあります。ベトナムのゲルマニストの多くは、ベトナムと日本は隣国ではありませんが、日本独文学会や日本のゲルマニストと交流したいと思っています。 
  二年に一回開かれる VDLV の学会が今年(2015年)10月16日、17日にハノイで開かれます。担当校はハノイ国家大学です。

 この学会について、または VDLV 自体、さらにはベトナムのゲルマニストの研究について関心のある方はFrau Prof. Duong Thi Viet Thang 先生(メールアドレスは <thangdtv////hanu.edu.vn> [ //// は @ に変えてメールしてください] )に連絡してください。Duong 先生から詳しく説明していただけます。

 

 これらのお話が終わって、先生は授業に行き、私は廊下に出ます。廊下を歩いていたら、いくつかの教室で手を振ってくれる学生さんがいます。入口近くの学生さんと話をします。韓国語とドイツ語と日本語のクラスでした。先生がクラスに来ます。私はまた廊下に出ます。外に出ると日差しは強く、校庭では学生さんが短パンで体育の実技をしていました。気温は25度ぐらいあったと思います。小春日和ならざる、小夏日和の、大晦日の雰囲気はどこにもない12月31日でした。

 

 注:私がしばらく日本語を教えていた中国の様子や、以前訪問したハバナ大学の事情も比較参考のために書きました。

 

 * :つい先年まではこれらの学科は学部だけで、修士課程は設置されていませんでした。ドイツ語の先生になりたい人は修士を持っている方が有利なので、修士を取るために外国の大学に留学しました。一番近い修士課程が設置されている大学はタイのバンコクの大学なので、バンコクで修士課程を修了したドイツ語の先生が多い。

 現在はこれらの三大学にも修士課程が設置されつつあります。

 中国の大学の文系でも先生は修士取得者のみとなってきました。私は2008年に中国に日本語を教えに行ったのですが、その大学の日本語学科では日本語の先生はお一人で学部卒でした。私が年齢制限で定年退職をした2012年には日本語学科の先生は七名になり、2008年からいらっしゃったお一人を除いて全員修士課程修了者でした。国が大学の先生は修士取得者のみと決めたからと言って、学士を持っている人が冷遇されるわけではありません。修士を持っていない先生には2年間の有給休暇を与えて修士課程で勉強させるのが一般的です。ですから意欲さえあれば、学歴を積むことができます。

 中国の急速な変化について述べても「今さら」の感がありますが、大学のレベルアップについてもこのようです。おそらく近いうちに文系でも、理系同様に、大学の先生は Ph.D が一般的になるかと思います。そしてドクターを持っていない先生にはマスター取得に似たシステムを採用すると思われます。

 

 ** :中国の大学では全日キャンパスでの授業は3年までで、第7学期になると授業は週に数日だけで、第8学期には就職活動と論文で授業はありませんでした。このことを言いますと、ベトナムでは4年後期まで授業をしている、とのことでした。

 また、10年も前のことですが、キューバのハバナ大学のドイツ語学科を訪問したことがあります。卒業生の多くは政府機関に就職したり、ドイツ語教師になったりする、とお聞きしました。このことを言いますと、ベトナムではそういう例もあるが、多くはドイツ語を使用する企業や団体に就職する人が多い、とのことでした。

 

 *** :この日ドイツ語職員室では男性の先生は見かけませんでした。何度か訪問した日本語の職員室でも男性の先生を見かけたのは一人でした。この日廊下を歩いていたら手を振ってくれる学生が幾つかのクラスでいて、そのクラスに入ってしばらく話をしました。ドイツ語学科、韓国語学科、日本語学科のクラスでしたが、どのクラスでも男子学生は数人で、ほとんどは女子学生でした。ベトナムでは外国語の学習者も先生も女性が圧倒的多数です。

 私が勤務していた中国の大学の外国語学部では学生の3分の1が男子学生で、3分の2は女子学生でした。先生は90%は女性です。

 

 **** :ベトナムにはゲーテ・インスティトゥトがハノイとホーチミンにあります。それ以外にもドイツ語を教える学校が幾つかあるそうです。

 

 

 



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